Crown and rose  2



寒空の下渡り歩いた結果、街外れのビジネスホテルに何とか空き部屋を見つけ、チェックインできたのは夜も大分更けてからだった。

とれた部屋はシングルで、余計な物は一切なく、ベッドに寄り添うようにして二人で座ればそれだけでいっぱいに感じるくらいに狭い。

小さい卓上コンロでお湯を沸かしていれたティーパックの紅茶を、ひとつは備え付けの湯飲みに、もうひとつは歯磨き用のプラスチックカップに分けて入れて、途中の店で買ったピースのショートケーキに、頼んで付けてもらった小さなろうそくを立てて火をつけて、ささやかな二人の宴は始まった。

「ハッピーバースディ、越前。」

 「・・・どもっす。」

少しだけ照れながら、小さな明かりを吹き消せば、不二がおめでとう、と小さく拍手をしてくれて、リョーマは胸いっぱいの幸せを噛み締める。

この世にいなかったら、この人には会えなかっただろう。それだけの単純な事がひどく大切な事に感じて。

 「今日は今までで最高の誕生日っす。」

窮屈な部屋にちっぽけなケーキを前にしてひどく嬉しそうに自分に告げるリョーマがたまらなく愛おしく思え、不二は目を細める。

 「・・・君ならこれから先もっと楽しくて幸せな誕生日は来るよ。」

この少年を世界が放っておくはずはない。

この光そのものの少年はきっと皆から愛される。今はここにいるけれどいつ手の届かないところに行ってしまってもおかしくないのだ。

「例えば・・・そうだね、うんと豪華なホテルの部屋に大きなケーキ、そしてたくさんの人に囲まれて祝われる・・・君にはそういう誕生日の方が似合ってる気がするんだけどな?」

そんな気持ちを隠そうと、不二はわざと冗談めかしてリョーマに言う。

「・・・そこにはあんたはいるの?」

「え?」

「そこにあんたがいなきゃ何の意味もないんだけど。」

そんな不二をリョーマはまっすぐに見つめて。

「どんなに豪華でも、その場にあんたがいなきゃ何の意味もない。だってオレの幸せはみんなあんたに繋がってるから。」

「越前・・・」

「愛してるよ。今も、そしてこれからも・・・」

囁くようにそう言ったリョーマの声は甘く、その視線は眩しくて、その真っ直ぐさに不二は思わず苦笑する。

 「・・・そんな大事な言葉は簡単に言ったらダメだよ。」

自分はこの無鉄砲な愛しい人を守らなくてはいけない。

その言葉に溺れ込みたくなるのを押さえ、不二はゆっくりと微笑む。

 「本当に大事な時に大切に使わないと・・・ね?」

優しく諭すような不二の言葉にリョーマはその眉を曇らせると、不二の両肩を掴み、ありったけの力を込めてその瞳を覗き込む。

「越前?」

「今は・・・今年は信じてもらえないかもしれないっす。」

「・・・え?」

 「オレはまだ小さいし、何も持ってない。だから何を言っても重みはないと思うけど、来年も、そしてこれからもずっと言い続けるよ。」

・・・この年上の恋人は、我侭で子供な自分を好もしくない現実からかばってくれようとしているのだろう。

不二にかばってもらうほど自分は弱くないし、小さくもない・・・と悔しく思う気持ちもあったが、それが不二の優しさであり、自分を思う気持ちの裏返しだとわかっているから、乱暴に切り捨ててしまえない。

だから、自分はどれだけかかってもその気持ちを超えなくてはいけないと思う。

「・・・誰よりも、何よりも好きっす・・・」

早く大きくなりたい、せめて自分の言葉を信じてもらえるほどに。

 「・・・愛してる・・・」

この気持ちが自分の望むホントの意味で目の前の愛しい人に受け止めてもらえるまで告げ続けよう、そう心に誓いつつ。

「・・・・・」

不二の唇が何か言いたげに動きかけたが、結局それは笑みの形を取り、リョーマへと向けられる。

その笑顔は本当に綺麗で、その美しさに思わず見惚れていると、伸びてきた指に顎を掬われ、唇を重ねられた。

 “・・・先輩・・・”

あくまでも優しく重ねられた唇だったが、その久しぶりの感触と、それが自分からではなく不二からの行為だったという事に一瞬、頭の中が白くなり、気づけばリョーマは不二をベッドに押し倒していた。

 「・・・あんたが欲しい・・・」

不二を見下ろしそう囁けば、彼は小さく笑ってその手を伸ばす。

 「・・・いいよ・・・」

その言葉が合図になった。

 

ほの暗い明かりの中、その身体は輝くように白く見え、リョーマの視線を奪う。

ゆっくりと確認するようにその肌に手を這わせ、唇で触れれば、吐息と小さな声でそれに応える不二に、リョーマは目を細める。

 「・・・よく我慢できたかも・・・」

 「・・・え・・・?」

 「しばらくあんたとこういう事してなかったでしょ?」

 「・・・そうだね・・・」

確かにこうしてゆっくり向き合うのは久しぶりの事だ。

部活を引退して以来、めっきり顔を合わせる機会は減っていたし、ここのところお互いの予定も合わなかったから、恋人らしい時間を持つ事も出来ずにいて。

 「ねぇ、ちょっとは寂しいと思ってくれてた?」

リョーマのどこか甘えたような声に不二はゆっくりと笑う。 

「そうだね・・・でも・・・」

 「でも?」

「君がずっと中にいるような気がしていたから。」

一瞬、言われた意味が分からず小首を傾げたリョーマだったが、自分を見つめる不二の流し目にその意味を悟り、かっと身体が熱くなる。

ごくり、と喉の鳴る音に不二が軽く目を見開けば、鋭さを増したリョーマの視線に真っ直ぐに射抜かれて。

 「えちぜ・・・」

全てを言い終わらぬ内に乱暴に唇を塞がれた。

 「・・・全く、何て事言うんすか・・・」

噛み付くようなキスの後、荒い息の下でリョーマが呟く。

 「知らないっすよ?オレを煽ったりなんかして。」

 「・・・いいよ。好きにして。」

そう言って不二は腕を伸ばすと、その両手でリョーマの頬を優しく包みこむ。

「・・・先輩・・・?」

「今日はね、君が生まれてきてくれた事にずっと感謝してたんだ・・・そしてその大切な日を一緒に過ごせた事にも。」

こんな時だから、こんな時にしか言えない素直な気持ちを伝えたい。

 「ありがとう・・・生まれてきてくれて。」

愛してるよ、耳元に確かに落ちたその声にリョーマは目を見張る。

 「・・・ホントにもうあんたって人は・・・」

不意に込み上げてきた熱いものに視界がぼやけかけ、リョーマは慌てて不二の肩先に額を押し付ける。

「越前?」

「・・・オレも感謝してるっす。生まれてこられた事、そして・・・あんたに会えたこと。」

運命とか奇跡なんて言葉は普段は信じちゃいないが、こうしてここにいる事、そしてこの腕の中に不二を抱いている事は確かにそうなんだ、そう思いつつ。

「越前・・・」

強くつよく抱きしめられ、再び唇を塞がれる。

性急な中にも優しさとそして溢れんばかりの愛情を感じ取りながら、不二はゆっくりと目を閉じた・・・

 

 

 「・・・ん・・・」

カーテンのすき間から差し込む日の光と、僅かながら聞こえる鳥のさえずる声に、リョーマはゆっくりとその目を開いた。

 “・・・あ・・・”

目をしばたき、自分のすぐ横にまどろむ顔に微笑むと、その手を伸ばし、その髪を指先でそっと弄べば、覚めると思っていなかったその目がゆっくりと開く。

 「ごめん、起こしたね。」

まだ眠たそうなその瞳にそう詫びれば、返事の代わりにしなやかな手が首裏に回され、額にキスされる。

 「ねぇ・・・」

 「・・・ん?」

 「さっき昔の夢見てた。」

 「昔の夢??」

 「うん、初めてオレの誕生日を一緒に祝った時の夢。」

初めて他人・・・しかも愛する人に自分の存在が嬉しいと言ってもらえた日。

あの感動は一生忘れないだろう、そう思った。

その思いを知ってか知らずしてか不二の眠たそうだった目がゆっくりと見開かれ、人の悪い微笑むを刻む。

 「・・・そういえばあの時はひどい目にあったっけ。」

「・・・え・・・」

「次の日歩くのもいっぱいいっぱいでさ、大変だったんだよ??」

 「!あれは・・・あんたが煽ったからだろ?」

 「そうだった?」

すっかり大人の顔つきになったけれど、自分を見つめるその瞳の色だけは変わらないな、と思いながら、不二はリョーマの頬に指を触れる。

 「ねぇ、今年の誕生日は何が欲しい?」

 「またそれを聞くの??」

 「え、だって・・・」

 「他には何にもいらないって毎年言ってるでしょ?」

昔はともかく今は一緒に暮らしているのに・・・と小首を傾げる不二を抱きしめて、リョーマはその耳元に囁きかける。

  「側にいてよ、ずっと。」

この人以上に欲しいものなんてない。望んで望んでようやくその距離を近くした今でも焦がれてやまない大切な人。

「・・・わかった。」

腕の中の不二がそう言って小さく頷くのに、リョーマは満足そうに笑うと、あの時と同じように胸いっぱいの喜びを噛み締めながら、愛しい人の額に口付けた。

 


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何となく尻切れでごめんなさい; じつはこれ裏の部分もしっかり存在してるんですが、いかんせんすごい事になっちゃって(!)まだ裏のページなる物をこさえておりませんでしたので、急遽朝チュンバージョンにしたらばこういう事に;;;

この話のタイトルですが私の大好きなアーティスト様の曲のタイトルから拝借しました。

CROWN AND ROSES”がホントのタイトルなんですが、ROSE が複数じゃまずいかなと思いまして(笑)・・・でもまぁとりあえず王子ハピバということで;;; 読んで下さった方ありがとうございましたvvv